VCV Rackの純正モジュールを解説しつつ、実機でも共通のモジュラーシンセに関する知識も説明していきます。うんちく多めです。
・ユーロラック
業務用サーバー・楽曲制作向けアウトボード・PA向けオーディオプロセッサーなどを固定して収納するケースの統一規格。各業界で標準規格のためラックケースとも。
本来はレールが縦方向にあるのだが、独ドイプファー社がこれを横倒しにして(間違いでした)横にレールを渡して従来より小型のモジュラーシンセの規格とし、これが現在の主流となっている。
モジュラーシンセでは、高さが固定で3U(実機だと特殊なモジュールで1Uやら4Uやら5Uやらあるらしい)、横幅がモジュールごとに異なり、ネジ穴ひとつにつき1HPという単位で表される。
ケース側の主流としては、横幅が84HPか108HPで、高さが3U(1段)か6U(2段)程度が一般的。実機だとただの箱のくせに何万とかしてつらい。
ドイプファー社のウェブサイトにはモジュラーシンセ向けユーロラック規格の資料があり(うろ覚えです)、モジュールやケースを製作する個人やガレージメーカー等が参照できる(はず)。サイズだけでなく使用する電源や電圧などの規格も統一されているため、ユーロラック規格であれば異なるメーカーのモジュールを自由に組み合わせることができる。
・VCO (Voltage Controlled Oscillator)(電圧制御発振器)
オシレーター。V/Oct(ボルテージオクターブ)のジャックに入力される電圧やノブの位置に応じて決まった音程の波形を出力するモジュール。0V(電圧なし)でC4(261.63Hz)の音を出力するものが多い。
V/Octとはオシレーター側が電圧を音程に変換する比率のことで、その名の通り電圧1ボルトごとに1オクターブぶん音程が上下する。(たぶん)-10Vから+10Vまで受けることが可能で、可聴域の20Hz~20,000Hz以上の範囲をカバーする。V/Hzという比率での変換も存在するが、V/Octの方がおそらく主流。
出力する波形は正弦波(サイン)・三角波(トライアングル)・のこぎり波(ソートゥース)・矩形波(パルス/スクエア)の4種類から選べるのが一般的。アナログシンセといえばこの「ブー」とか「ビー」とかいう音。
オシレーターはシンセサイザーにおける主要な音源ということで様々なものがあり、波形の生成方法の違いはもちろんのこと、実機では、言葉では表現しづらい音の質感だとか、各種モジュレーションに対する反応の仕方など、こだわろうとすればいくらでもできてしまう分かりやすい沼。
VCVでも利用できる波形の生成方法としては、波形間をモーフィングしていくウェーブテーブルオシレーターやベクターオシレーター・FM向けに設計されたFMオペレーター・サイン波に倍音を選んで足していくアディティブ(加算合成)オシレーター・物体の振動を物理的にシミュレーションしたフィジカルモデリング音源・これだけで記事がひとつ書けてしまいそうなグラニュラーシンセシス(粒子再合成?)を用いたサンプラーベースのオシレーターなどが存在する。
ピッチのコースチューン(ざっくりした調整)とファインチューン(微調整)がノブで行えるが、V/Octより範囲が狭いことが多い。FM(Frequency Modulation)(周波数変調)のノブはアッテネーター(減衰器)となっており、FMのジャックに入力したCV(Control Voltage)(制御用電圧)の効き具合を調節することができる。全開でV/Octと同様の動作をする(はず)。PWN(Pulse Width Modulation)(パルス幅変調)は、ノブやCVで矩形波の幅を変えることができ、音も変化する。
Sync(オシレーターシンク)のジャックに別のオシレーターの波形を入力するとピッチを相手側に合わせることができ、このとき自分側が相手側と異なるピッチだと波形の周期が強制的にリセットされ、その結果得られる波形から独特な音が出る。スイッチで方式をハードとソフトから選択可能(仕組みについてはあんま詳しくないので音の感じで覚えてください。申し訳ない)。
画像右側VCO-2の波形ノブでは波形のモーフィング(クロスフェード)が可能で、微妙な波形を出力することも可能。
オシレーターに限らずモジュラーシンセの面白い点として、「〇〇でなければならない」といったルールが存在しないというものがある。
たとえばV/OctやFMのジャックに別のオシレーターの出力をブチ込んでみてもまったく問題はなく、むしろこれは波形の掛け合わせによるFMシンセシス(乗算合成)というれっきとした合成方式である。FM合成は一般的にサイン波で行われるが、たとえばのこぎり波で行ってみても独特の音が得られて面白い。
他にも、波形ノブに別のオシレーターの出力を入れてみたり、そもそもオシレーターの出力を自身のジャックに入れてみたり…… どんな音が出るかはさておき、モジュラーシンセはなんでもありなのが特徴である。
ちなみに、CVではなく音声信号で変調を行うことをオーディオレートでのモジュレーションと呼ぶこともある。モジュラーシンセ上では音声信号もCVも電圧として等しく扱うため、二分されてはいるものの両者は同じものである。ただし、CVは周期的でなかったり周期があっても可聴域に達しない場合がほとんどなので、例外はあれど基本的に音として聞こえない点に注意。
また、(知ったかですが)CVは周期的ではないのでつまりは直流の電圧であり(音声信号は周期的なので交流)、スピーカーやヘッドホン等の振動板を片側にだけ動かす(DCオフセット)。これはコンプ等ダイナミクス系エフェクトの効きに悪影響を及ぼすことがあるため、気になる場合は可聴範囲外の周波数に対してフィルターを適用しておくことでとりあえず対策できる(ここらへんは自信ないので個人的な経験談程度に捉えてください)。
・ノイズジェネレーター
その名の通り各種ノイズを出力するモジュールで、(勝手に呼んでいる)vcvの三大音源のひとつ。ちなみに残りはオシレーターとサンプラー。各種カラーノイズはオクターブごとに何dB音量が変化するかが異なる。オシレーターの音にも言えることだが、そのままだと面白くないことが多いので、さまざまなモジュールを使ってゴリゴリ加工するのがモジュラーの醍醐味。ドラムサウンドを作る際によく使われるが、モジュレーションソースとして使ってみても面白い。
・ミキサー
オーディオはもちろんCVもまとめられる。また、VCVのミキサーはCVでコントロール可能なので、ゲート信号(モジュール側で設定されたしきい値以上のCVのことで、音を出すか出さないかを制御する、文字通り門)やエンベロープ(DAWでもおなじみのADSRのCV)で音を出したり出さなかったりすることが可能。
・VCA (Voltage Controlled Amplifier)(電圧制御増幅器)
増幅器とはいうものの、モジュラーシンセのアンプは入力された信号を増幅するというより時間的に制御するために使うことが多い。CVでコントロールすることが多いのだが、それに対する反応の仕方をリニア(1次関数的)とエクスポネンシャル(指数関数的)から選べる場合が多く、たとえばエンベロープで制御する場合は効きの鋭さが変わってくる。
もちろんオーディオレートでのモジュレーションも可能で、AM(Amplitude Modulation)(振幅変調)シンセシスと呼ばれる。
波形変調の方式としては先に挙げたFM(周波数変調)とAM(振幅変調)の他にPM(Phase Modulation)(位相変調)も有名だが、シンセではいまいちマイナーな印象。しかし近年では実機の方で位相変調を意識したモジュールが出てきているようで、これから新たな音が生まれてくるかもしれない。
・VCF (Voltage Controlled Filter)(電圧制御フィルター)
いわゆる普通のアナログシンセにおけるサブトラクティブ(減算合成)シンセシスに欠かせないモジュールで、ハイパスとローパスが選べる他、ふたつ組み合わせてバンドパスとすることも可能。カットオフ周波数を強調し、強く効かせれば発振もするレゾナンスや、ゲインを補ったりクリップを起こしたりできるドライブも搭載し、いずれもCVでコントロール可能。ただしCVのアッテネーターはカットオフ周波数にしか付いていないので、レゾナンスやドライブをモジュレーションしたい場合は別途アッテネーターを用意すると便利。
フィルターにも動作方式でバリエーションがあり、レゾナンスの質感やカットオフのカーブ(ポール)等が異なる。
よくある使い方として、カットオフ周波数をエンベロープでモジュレーションし、エンベロープのゲートは鍵盤の打鍵から取ることでびよんびよんした音を出すことができる。ハービー=ハンコックのカメレオンのアレ。エンベロープやレゾナンスの効かせ具合にこだわるのが楽しい。
レゾナンスの発振で得られるサイン波を音源として使うことも可能で、オシレーターとは質感が違うとかなんとか。
・ディレイ
エレキギター用でも有名なディレイはシンセサイザーでも伝統的なエフェクト(らしい)。タイム・フィードバック・カラー・ミックスのすべてをCV制御できる。ディレイタイムを変えるとフィードバック音のピッチが変わるタイプなので、ここをモジュレーションすると面白くなりやすい。残念ながらフィードバック100%でも発振してくれない。もちろんCVもディレイさせることが可能で、少し変わったアプローチもできる。
・レコーダー
録音機。実機にもある。右クリックのメニューから設定を変更できる。少しでも面白い音が出来たと思ったらとりあえず録っておくと、サンプラーモジュールのネタとして利用できる。ボタンだけでなくCVでも操作が可能。・エクスターナル
VCV Rackの音を聞いたり、逆に音声を入力したりするためのモジュール。WASAPI、ASIO、CoreAudioなど一通り対応している。なんとここすらCVに対応しており、プリソーナスやモツあたりのAIFであれば出力がDCに対応しているので、-10Vから+10Vまで現実世界に引っ張り出して実機の制御に利用できてしまう。実際、実機とVCVを連動させたシステムを利用している人は少なからず存在している。また、AIFの実機モジュールも存在するが、当然高い。
実はDC非対応とされている出力でもある程度の電圧は出すことが可能で、それこそノートパソコンのイヤホンジャックからでも音量マックスで±5Vくらいは取ることができる。
・エンベロープジェネレーター
ゲート信号を入力することで、なめらかに変化するCVを生成するモジュール。ゲート信号の入力中にトリガー信号(短いゲート信号)を入力することでリトリガー(強制リセット)も可能。ADSRいずれもCV制御可能で、様々なものに連動させて音のキャラクターを変えることができる。・LFO (Low Frequency Oscillator)(低周波発振器)
DAWにもあるアレ。可聴域より低い周波数帯に特化したオシレーターで、CVとして周期的な変化をつけるために使うことが多い。仕組みはオシレーターと同様だが極性というものがあり、ユニポーラ―(単極性)(0V~10V)とバイポーラ―(双極性)(-5V~+5V)から選択可能。基本的にモジュラーシンセのCVというものはこのどちらかの範囲に収まるようになっている。・サンプル&ホールド
いうなればランダムCVジェネレーター。正確には、サンプル電圧とクロック電圧を入力することで、クロックの周期ごとにサンプル電圧の値を取得し、次の周期までそれを保持するというもの。クロックは必須なので最初から内蔵されており、また、サンプルにはノイズを入れておくことで周期ごとにランダムなCVを得る使い方をされることが圧倒的に多いため、デフォルトでその状態になっている。
極性はもちろんのこと、ランダム性をアブソリュート(絶対的)とリレティブ(相対的)から選択することができ、前者はCVが乱高下することもあるが、後者は変化が緩やかで、求める変化の仕方に応じて使い分けることができる。
さらにシェイプのスライダーでCV変化の滑らかさを設定できる他、4つの出力でCV間が異なるカーブを描くようになっている。出力の種類はステップ・スムース・リニア・エクスポネンシャルの4種類。
ランダムCVジェネレーターは物によってCV間のカーブやランダム性がかなり異なるので、本格的に活用したい場合はさまざまなモジュールを試してみることをおすすめします。
・シーケンサー
クロックを入力することで、周期ごとに設定されたV/Octとゲートを出力するモジュール。VCVのものはクロックが内蔵されている。8ステップあるが、個別に有効無効を切り替えたり、何ステップ目まで有効といった設定も可能。Ctrl+Rでランダマイズすると面白くなりやすい。シーケンサーもモジュラーシンセの中では大きいカテゴリーなので、バリエーションやアプローチがたいへん豊富。・アッテネーター
減衰器。VCVのものは12時を±0としてプラス方向はもちろんマイナス方向に動かして信号を反転させることもできるためインバーターでもあり、そういったものはアッテヌバーター等と呼ばれる。CVでモジュレーションしたい先の入力にアッテネーターが付いていない場合の調節や、CVを反転させてバリエーションを増やしたりもできる。何も入力されていない場合はノブを回すと-10Vから+10VまでのCVを出せる他、ひとつの入力はそれより下の入力にもコピーされる機能があるため、知っていると便利。
・アダー/サマー
どちらかというとCV向けのミキサーで、入力の合計か平均をそのままか反転させて出力することが可能。たとえばフィルターのカットオフ周波数をランダムCVとエンベロープで同時にモジュレーションしたい場合はフィルター側の入力が足りないため、ここでふたつのCVを束ねてから出す、といったような使い方をする。・クオンタイザー
V/Octを任意の割り方で分割するモジュール。VCVのものは個人的に使いづらいのでまったく使っておらず解説できません。申し訳ない……後記するMIDIモジュールでキーボード等から取る場合を除き、V/Octはそのままだと滑らかすぎて微分音なども平気で指定できてしまうので、クオンタイザーを通すことで任意のスケールに当てはめることができる。
・オクターバー
これもV/Oct向けモジュールで、その名の通りオクターブを上下させる事ができる。言い換えれば1V単位でプラスやマイナスのオフセット電圧を加えている。・ポリフォニック系
VCVにはポリフォニックケーブルという概念があり、これは複数本のケーブルの情報を1本のケーブルにまとめたり、それをふたたび分割したりできるというもの。要はADATやMADIやDanteのようなもの。ポリフォニックケーブルは画面上に太く表示され、1本につき最大で16本分の情報を伝達できる。同時発音数が2音以上の鍵盤シンセを作りたい場合などに使う。ポリフォニックという言葉も鍵盤シンセの同時発音数が複数であることを表す言葉から来ており、アナログシンセに多い同時に1音しか発音できないものはモノフォニックと呼ばれる。モジュールによってはポリフォニックに対応していないものもあるので注意。・ポリフォニック系(その2)
ポリフォニックケーブル内の信号をまとめて1本の通常ケーブルにしたり、、ポリフォニックケーブル内の情報を見ることができるモジュール。・MSエンコーダー/デコーダー
音声編集でも見かけるアレ。何に使うんだ……()・ブランクパネル
実機では余ったスペースを埋めることで電子回路むき出しなモジュール裏面を保護するために使う板。VCVでは仕切りとして視認性向上のために利用できる。横幅を変えられるのはソフトウェアならでは。・オシロスコープ
2系統までの電圧を同時に可視化できるモジュール。音声信号の波形を確認するのはもちろんのこと、LFOやエンベロープなどCVの状態を確認するのにも便利で、「なんですかねこれは」と思ったらとりあえず可視化してみると理解への手がかりがつかめたりする。
・MIDI系
USB-MIDI機器から各種CVを生成するためのモジュール。V/Oct・ゲート・トリガー・ベロシティ・アフタータッチ・ピッチベンド・モジュレーションホイール・クロック・トランスポートコントロール・コントロールチェンジなどなど色々できる。また、CV制御用の入力がないノブに対しては直接マッピングすることも可能。・テキストディスプレイ
メモ書きが可能。ただし、VCV Rackは全体的に英語にしか対応していないため不便。サンプラーに取り込む音源の名前も英語が好ましい。またmp3だと対応していない場合が多いためwavで用意しておくのがおすすめ。・おわりに
VCV純正モジュールの解説でした。とりあえず純正モジュールだけでも知識があれば、VCV Rackでシンセの仕組みを学んでいく程度はできるのではないかと思います。
純正モジュール群で網羅できていないカテゴリーはたくさんあるため、そういったものはモジュールのマニュアルを読んだりYouTubeでデモ動画を探したりしてみると使い方が分かってくるかと思います。モジュラーシンセの情報は実機でもVCVでも英語ばかりなので、英語力を鍛えるか翻訳を駆使するかしていきましょう。
次になにか発信するとしたら、具体的なシンセシスの実例になるでしょうか。しかし、自分としてはその辺りから個人差というか個性というか方向性の違いなどが出てき始めるため、できればみなさん自身でいろいろ遊んでみてほしいと思っています。
Patchstorage( https://patchstorage.com/platform/vcv-rack/ )というサイトがあるのですが、そこには自分も含め有志が作成したラックのデータが投稿されており、ダウンロードしていじってみると勉強になるのでぜひ使ってみてください。
最後に宣伝ですが、各種サイトでラックのデータやら作った音やらを公開していますので、もしよければ覗いてみてください。
Patchstorage
https://patchstorage.com/author/baragamap/
ニコニコ動画
https://www.nicovideo.jp/user/30829805/video
サンクラ
https://soundcloud.com/user-943205866
ツイッター
記事は以上です。長文お疲れさまでした。みなさんが作った音もぜひ聞かせてください。
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